マリー

 

11

ブサイくんは、どうにかしてマリーを譲ってもらえないかと考えていた。
しかし、時間は過ぎるばかりだし、カワイちゃんとはマリーの話題すら出ない。
当たり前だ。
何が楽しくて、せっかくのデート中に消しゴムの話をしなくてはならないのだ。

カワイちゃんは、できるだけ長い時間ブサイくんと居たいから、色々なショップに立ち寄っては、「カワイイー」などと言ってはしゃいでいた。
それがまたブサイくんを焦らせた。
マリーの事を切り出したいけれど、中々タイミングが掴めない。
どうしたらいいのだろうか。
じっとりした汗がブサイくんを覆った。
そうこうしているうちに、健全な放課後タイムは終わってしまう。

 

「そろそろ、帰らなくちゃ」
カワイちゃんは、一階の靴屋の前で、とても残念そうに言う。
しかし、ブサイくんはそれ以上に残念そうな顔をする。
それを見たカワイちゃんは、喜んだ。
「何、その残念そうな顔は!!! もしかして、もしかして、まだ私と一緒に居たいってこと!?」っていう感じで喜んだ。
そんなカワイちゃんの期待とは相反して、ブサイくんは「そ、そうだね‥‥」と少し冷たく応じた。
さっきまで喜んでいたカワイちゃんは肩を落とした。
二人とも残念そうに、出口までトボトボ歩いた。
あと数歩で自動ドアに差し掛かる時、「あ、あのさ!」と勢いのある声でブサイくんが言った。
「うん?」と言う、カワイちゃんの目はキラキラしている。
期待しているのだ。
このあとの展開に。
しかし、ブサイくんの口から出たのは、「あの、MOMOの消しゴムって良く消えるの!? 消えるなら、その‥‥今度貸してくれないかな!?きょ、今日、買ってたもんね?」という言葉だった。
さすがのカワイちゃんもこれには反応が遅れた。
少しの間のあとに「‥‥あ、うん、い、いいよ」と言った。

それを聞いたブサイくんの顔は嬉しそうで、そのブサイくんを見たカワイちゃんも嬉しそうだった。

恋とは実に盲目である。

 

 

「マリー」-11-
2013.6.18


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マリー 11
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