「生まれて8年目」

 

7月6日  晴れのち雨

今日は学校が休みだったから、朝から公園に行った。
忍術の訓練をするためだ。
外は朝なのに暑かった。
何の術を練習しようか、考えながら公園に行くと、すでに男の子が二人居た。
「邪魔だなぁ」と思ったけれど、よく見ると、いつも一緒に忍者ごっこをするやつらだ。
一人はメガネをかけている。
もう一人は限りなく坊主に近い髪型をしている。
うーん。
日記では、ソルトとペッパーと書くことにしよう!
メガネがソルト、坊主がペッパーだ。

メガネのソルトと坊主のペッパーは、水道のところで楽しそうにしている。
ボクがそこに行くと「よっ!一緒にやる!?」と言って、たわわになった水風船を差し出した。
ボクは一瞬でワクワクした。
なんて楽しそうな事をしているんだ!
「もちろん!」とボクは答えると水風船に水を入れて、水風船爆弾を製造した。
「ふふふ。では、今日は水遁の術の修行だ!」
水風船爆弾を両手に持ち、ボクたち三人は向かい合った。
「いくぞ!」
その合図で、ボクらは走り回り、お互いに水風船を投げ付けた。
水風船に当たると、それは割れて熱くなった体を冷やした。
とても気持ちよかった。

そこへ、女子が二人やってきた。
ボクは目を疑った。
なんと、そのうちの一人はカルボさんじゃないか!
これは格好の良いところを見せなければ!
ボクはそう思って気合いを入れた。

 

水風船爆弾が無くなったので、ボクたち三人は水道のところで製造を開始した。
そこへカルボさんではない女子がやってきた。
彼女は、クラスの中でも口うるさいことで有名だ。
タバスコさんという名前にしよう。
「ちょっと、男子、うちらに掛からないようにしてよ!」と言うのだ。
ボクたち三人は顔を見合わせた。
そして、三人とも悪い顔をした。
ソルトが、水を飲むようの水道に親指を掛けて水が出る部分を半分ふさいだ。
そして、一気に水を出す。
するとタバスコさんの方に水が飛んだ。
「いやー!ちょっ!」と言って、タバスコさんはカルボさんの方へ逃げた。
ソルトのメガネにも水滴がたくさんついている。
ボクたちはそれを見て笑った。
その時だった。
また公園に人が増えた。
「お前ら!また忍者ごっこをしてるんだろう!逮捕してやる!」
ペペロンだ。
ボクたち三人はまた悪い顔をした。
ずんずんとこちらへ近づいてくるペペロンを目一杯引き寄せたところで、一斉に水風船爆弾を投げ付けた。
「水遁、水爆連弾!!」
「ひょえ!!」
ペペロンはなんとも情けない声を出した。
ボクたち三人はまた笑った。

 

追いかけてくるペペロン。
水風船爆弾で応戦するボクたち。
びしょびしょになったペペロンが、半泣きでボクと一対一になった。
「いけないんだからな!忍者は!」
ボクは「ふふふふふ」と不敵な声を出しながら思いきり水風船爆弾を投げた。
でも、それはペペロンに当たらなかった。
ペペロンに当たらないで、飛んで行った水風船爆弾はあろうことかカルボさんのスカートに当たって、破裂した。
時が一瞬止まったその時、雷が鳴って、大雨が降った。
ソルトもペッパーも「やべ!雨だ!帰ろう!」と言って走っていった。
ペペロンは、ボクの水風船の行方を見て固まっていた。
少し雨に打たれたあと、「お、俺、帰る!」と言って走っていった。
タバスコさんがカルボさんの横で何やら騒いでいた。
それからボクを睨み付けたあと、カルボさんの手を引いてどこかへ走っていった。
ボクは、しばらく雨に打たれていた。

 

帰ったボクを見たお母さんは「あらら。それは『水遁、ずぶ濡れの術』?」と言った。
いつものボクならすぐに笑ったかもしれないけど、今日は上手く笑えなかった。

 

カルボさんに謝ることができなかった。
カルボさん、ボクのこと嫌いになってしまっただろうか。
今日はよく眠れそうにない。

 

 

「生まれて8年目」-6-
2013.7.13




生まれて8年目 6
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