「ロール」

 

ロール3

雑誌を見てる。
漫画雑誌。
巻頭のグラビアはエミナちゃんだ。
エミナちゃんサイコー。
「なぁ、見ろよトイチ」と呼び掛けたけど、トイチは寝てた。
カウンターで堂々と寝ている。
だがしかし、僕も堂々と漫画を読んでいる。
一人は居眠り、一人は漫画を読んでる、でも時給は発生している。
サイコー。
やっぱりここのバイトサイコー。

 

で、あっという間に夕方。
トイチが起きた。
「んー!」と言って両腕を天に突き上げて伸びてる。
それから外していたメガネを掛けた。
「お前、寝すぎだろ!」
「良いんだよ。ここでしっかり寝るから遅刻しないんだから、どこかの誰かと違ってさ」
「おいおい、言うじゃねぇか!」
僕とトイチがじゃれてると、客が来た。
「あのー」と客が来た。
そいつはガキだった。
坊っちゃん刈りのガキだった。
この辺の中学校の制服を着ている。
「いらっしゃい!」
トイチが愛想よく言った。
僕は何も言わない。
とりあえず、そいつを観察していた。
「あの、すみません、ここに勉強に役立つ物があるって聞いて」
「は?」
思わず僕は声に出していた。
なんだよそれ。
僕は続けてガキに言った。
「あのね、ここ、トイレットペーパー屋だよ?文房具なんて売ってないから」
「そうじゃなくて、その・・・」
「あぁ、もしかして、暗記シリーズかな!?」
トイチが声を上げた。
「あ?」
僕はトイチを見る。
「ほら、確かあるだろ、あのー、歴代首相ペーパーとか日本史ペーパーとか、世界史ペーパーとかさ!」
あぁ。
あれね。
あるわ。
そういや、あるわ。
「だよね?」
トイチがガキに目配せをしながら言う。
「た、多分」
「よし、探すか!」
マジかよ。
トイチは僕の肩を叩く。
仕方ない。
僕はため息混じりに、店に詰まってるトイレットペーパーを探した。

この店は店主の趣味で集めてる色々なトイレットペーパーを売っている。
大体の物は、ペーパーに文字がプリントしてある場合が多い。
学習シリーズもそれだ。
あと僕が使ってる「格言トイレットペーパー」もそれ。
今日の言葉は「阿呆からは幸せを学べる」だった。
だけど、店内は全然整理されてないから、何がどこにあるかも分からない。
僕とトイチは客が来て、指名買いみたいなのがある度にそれを探さなきゃならない。
面倒だ。

「あ、あった。あったよ、ほら」
トイチがそう言ったのは、探し始めてから30分くらい経ってからだ。
「どうする?どれ買う?」
トイチがガキに聞く。
「えと、世界史のヤツ」
「はいよ。じゃあ、300円ね!」
売っといていうのもなんだけど、ワンロール300円てくそ高いだろ。
くそ高いけど、それでも買うヤツは買う。
このガキも普通に300円払った。
「てかさ、」
僕はトイレットペーパーを受け取ったガキに聞く。
「何でお前みたいなガキがうちの事知ってんの?」
子供なんて買いに来た試しがない。
「ネットで、知りました」
「ネット?」
「結構、見掛けます」
「ふーん」

 

ガキが帰った後は客は来なかった。
そりゃそうだ。
それでこそいつも通り。
そして助かる。
暇だからトイチと二人でネットを見てみた。
さっきガキが言ってた事が気になって、「トレイットペーパー屋」で検索をしてみたわけだ。
パソコンなんてこの店に無いから、ケータイで見た。
意外と検索に引っ掛かった。
『面白い店がある』とか、そんなんが出てきた。
「お、俺の事書いてある!」
トイチが声を上げた。
「なになに、『デブはデブだけど、愛想が良くて良い』だってさ!」
「なんだそれ、褒められてんのかよ、それ」
「お前の事も書いてあるじゃん」
デブがテンション高めに言う。
「えーと『あのパーカー着てるひょろいヤツは全くやる気なくて最悪』だってよ!分かってる!お客様は分かってらっしゃる!」
そう言って、デブが笑った。

 

 

「ロール」-3-
2013.11.18

ロール 3
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