「ロール」

 

ロール4

朝6時に目覚ましが鳴ります。
私は割りと目覚めが良い方なので、布団の中であまりぐずぐずしません。
布団から出るとまずは顔を洗います。
それから歯磨きをします。
そのあとは買い置きしてあるフルーツとヨーグルトをミキサーに掛けてスムージーを作ります。
それを飲みながら天気予報を見ます。
ボーッとしながら見ます。
コンビニのアルバイトは7時からで、私は6時40分に家を出ます。
そしたら大体6時47分頃にはコンビニに着きます。

 

「おはようございまーす」
売り場には元気よく出ます。
「お、あきほちゃん今日も可愛いね!」と深夜帯のバイトの人が言ってくれればいいのですが、深夜のバイトの人はとても静かなのです。
寡黙ーカモクー。
私はその言葉を使いたいがために、彼をそう呼びます。
カモクさんはぼそりぼそりと私に引き継ぎ事項を述べます。
重要そうな所はメモをして忘れないようにします。
引き継ぎが終わるとカモクさんは弁当と漫画雑誌とコーラを買って帰ります。
「お疲れさまでーす」
私は笑顔で挨拶します。
「明日も会おうね、アキホっち!」とポップな感じの挨拶も無く、カモクさんは帰っていきます。
さて、ぼーっとしている時間はありません。
この時間帯は忙しいのです。
7時に来た店長と二人で朝の業務をこなしていきます。

 

8時30分にカンロさんが来ると、店長はバックヤードで仕事をします。
カンロはさんは言います。
「来た?あの若造」
「いいえ、まだ来ません。9時ぎりぎりでしょうね。遅刻しない日はないので」
「そっかぁ。今日の言葉はなんだろね」
「なんでしょうね」

 

9時を5分過ぎた頃でした。
私は入り口の外を見ていました。
するといつになく慌てて自転車を漕いでいる彼が向こうの方に見えました。
激しい急ブレーキで店の前に自転車を停めると、すごく優雅な雰囲気で自動ドアをくぐって入ってきます。
彼です。
遅刻さんです。
彼はゆっくりと雑誌コーナーの方から回って缶コーヒーコーナーへ行きました。
カンロさんは彼を見て笑っています。
「何、あのわざとらしい余裕の出し方は」
私も思わず笑ってしまいますが、遅刻さんに失礼なので、必死に我慢します。
遅刻さんがレジにやって来ました。
今日もブラックの缶コーヒーです。
それと、いつもは買わない漫画雑誌も一緒でした。
私は「あ、」となってしまい、ほんの少しだけ、レジを打つのを忘れてしまいました。
「おはよう、アキホちゃん」
「あ、おはようございます!今日も遅刻なのに、漫画雑誌を買う余裕があるんですね!」
そう言うと、隣でカンロさんが「クックック」と笑う声が聞こえました。
「いやいやいや、アキホちゃんは何か勘違いしているようだけれど、僕にはね、遅刻とかそういうの無いんだよね。本当に。偉いからさ、職場じゃもう、若くして偉いんだよ」
「そうなんですね」
私はそう言いながら、遅刻さんにお釣りを渡します。
「あ、そうそう今日は『手の中のサイコロは振らずに潰せ』だよ!よろしく!」
遅刻さんはそう言って笑うと、ゆっくりと出口へ向かいました。
でも、出口を出るととんでもなく慌てて自転車を引きずって、そしてそれに股がって漕いでいきました。
「何、あれ!?」
カンロさんが盛大に笑っています。
「あれ、絶対に大遅刻じゃん!?マジで笑えるね。あんたの事が好きなのね」
「え!?」
私は驚きました。
「え!?じゃないわよ。分かってあげなきゃあの男が可哀想過ぎる!」
そう言うとカンロさんはさらに笑うのでした。
一先ず私はレジ横に立て掛けてあるノートをひっぱり出して今日の言葉を書きます。
「手の中のサイコロは振らずに潰せ」
呟いてみるけれど、さっぱり意味は分かりません。

 

お昼の12時にバイトが終わります。
「お疲れさまでーす」
バックヤードにいる店長に言うと、「お疲れー。あ、本、沢山仕入れておいたから!」と言われました。
その言葉に私は「ありがとうございます」と言うのです。
少し、照れながら言うのです。

 

 

「ロール」-4-
2013.11.19

ロール 4
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