「ロール」

 

ロール10

朝、いつも通りコンビニのバイトに行くと、深夜帯のバイトの寡黙なカモクさんがレジで何かに見いっていました。
私はそれが何なのか気になったのです。
だって、普段、引き継ぎ以上の言葉を交わさないカモクさんがそんなに見いっているのです。
彼が一体何に興味を持っているのか、知れるチャンスかもしれません。
「おはようございます」の挨拶は置いておいて、少し遠巻きに彼を観察します。
するとどうでしょう。
彼はそれを見ながらたまに笑うのです。
私は彼が笑った顔を初めて見ました。
俄然、気になりました。
でも遠巻きからでは、それを確認することができません。
これはもう不意打ちの「おはようございます」をかまして、素早くレジに移り、それを確認するしかありません。
そうとなったら早くやるに越した事はありません。
私は「おはようございます!」と明るく声を出して、早歩きでレジにいきました。
彼は私に気付くとそれを閉じて、レジの横に立て掛けました。
それは!
私は驚きました。
カモクさんが見入っていたのは、遅刻さんの「メイゲンノート」だったのです。
驚いている私をよそに、カモクさんは仕事の引き継ぎを始めます。
彼はもうさっきのような笑顔を見せませんでした。
いつものカモクさんでした。
カモクさんが帰ったあと、私はメイゲンノートを取り出してパラパラとページを捲りました。
私は何だか嬉しくなったのです。
このノートを見て笑ってくれる人がいるんだって。
私もここに書いてあるメイゲンに救われていますが、あのカモクさんを笑わせるなんてスゴいです。

 

「おはようアキホちゃん!」
その日の朝も、そう言って遅刻さんはブラックの缶コーヒーをレジまで持ってきました。
今日は9時を2分回っています。
「今日も遅刻ですか?」
「まさか!!遅刻とかそういうの無いから!僕くらいになるとね!」
「そうなんですねぇ」
「そんなことよりアキホちゃん、今日はね『胃袋はそれが偽物でも満たされる』だよ!」
「ありがとうございまーす!」
私は笑顔で言うのです。
遅刻さんはいつも通り、店内はゆっくり歩きます。
自動ドアを出るととても慌てて自転車を操作します。
それから、漕ぎ出す前に振り返って手を振ってくれるので、私もそれに応えます。
カンロさんが「あれ?なんか、あんたたち良い感じじゃない!?」と冷やかしてきます。
「そんなことないですよ。私、時間には正確な人が好きですから」
今まで、微塵も思ったことのない好みをなんとなく、口走ってしまったのは、多分まだ朝だからです。

 

 

「ロール」-10-
2013.11.26

ロール 10
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