「ロール」

 

ロール11

「モテたいんです!!」
外回りから帰った僕はカウンター越しに座るトイチにそう言って頭を下げた。
返事が無いから、下げた頭を戻してトイチを見る。
寝ていやがった。
いや、それくらいいつもの事だから予想しておくべきだった。
焦った僕がいけなかった。
とりあえず、トイチの頭を叩く。
起きたトイチにもう一度「モテたい!!」と言う。
トイチはそんな僕を「そうかい。まずは遅刻を直すことだね」とあしらった。
このデブメガネめ!!!!
そう叫びたかったけれど、我慢した。
「なんかさ、良いトイレットペーパー無いの?『君も明日から激モテトイレットペーパー』とか『即イケメン!トイレットペーパー』とかさぁ。ねぇ、ねぇ、無いのぉ?」
媚びる僕にトイチは言う。
「あのね、お前もこの店の店員なんだから自分で探したらいいじゃん。つーか、店員のお前が知らなくてどーするんだよ」
一理ある。
いや、一理どころではない。
二理も三理もある。
しかし僕は粘る。
「お願いだよ!トイチさん!」
トイチはため息を吐く。
「どーしたんだよ急に?」
その言葉に僕は思い出す。
あの全くもってモテなさそうだったジミ男くんが、ゆるふわキュートな彼女と手を繋いで歩いていたことを。
ガッデム!!
思い出すと腹が立ってきた。
「てかさ、モテたいって言うけどさ、それはコンビニのお姉さんにってこと?」
はて?
何を言っているんだこのおデブちゃんは。
「モテたいってのは、とにかくモテたいってことだよ!」
「いや、でもさ、好きな人にモテるのが一番良いんじゃないの?例えば、そのコンビニのお姉さんとかエミナちゃんとか」
「エ、エ、エミナちゃん!?エミナちゃんにモテるだと!?・・・最高じゃないか、それ」
「まぁ、例えばだけどさ、そんな風にさ好きな人とか憧れている人にモテるのが一番いいじゃん?」
確かに。
一理ある。
いや、一理どころではない。
二理と三理、足して五理はある。
「てかさ、コンビニのお姉さんとエミナちゃん、どっちが好きなの?」
なんだと!?
そんな事、今まで考えた事なかった!
このデブ、メガネのくせにとんでもねぇことを聞いてくるな。
アキホちゃんとエミナちゃんどっちが良いか・・・。
アキホちゃんは本当に良い子だからな。
毎朝早くから働いて。
僕には到底できない仕事だ。
きっと苦労してる子だよあれは。
それなのに、僕なんかに笑顔を絶やさないし。
その笑顔は特別キュートだし。
色白だし、髪の毛は清純派顔負けの真っ黒け。
でもあれだな、ポニーテールにしてるのだけは好きじゃないんだよなぁ。
それに引き換え、エミナちゃんは清純派そのものの黒い髪の毛を結っていない。
そしてアキホちゃんに負けず劣らずのキュートな笑顔。
さらに色白で巨乳だ!
だが忘れるな!
彼女は雲の上の存在だ!
ここは現実的なアキホちゃんを選ぶべきか・・・。
否!
なんだその逃げ腰は!
しかし、アキホちゃんでも全然構わない!
・・・。
ダメだ。
決められない!
決められないよ!
「ダメだ。どっちも好きだ。でも、現実的なのはアキホちゃんかもしれない」
「コンビニのお姉さん?まぁ、近くにいるしね。あ、でもさ、エミナちゃんも出身はこの町だよ。高校もこの間来た男の子の所だし」
「嘘!?え?地元ここなの?」
「うん。てか、俺の兄ちゃん同級生だったし」

 

その時です。
僕の体を稲妻のようなエレキテルが貫いたのは。
なんてことでしょう!
エミナちゃんはこの町の高校に通っていたのです。
というか、この間変身を遂げたあのジミ男はエミナちゃんの後輩に当たるわけです。
エミナちゃんの後輩にもなってるし、可愛らしく可憐な彼女もいるし、なんなんでしょうか、あの男は。
あれ、でも僕もずっとこの町にいるので、もしかしたらエミナちゃんとすれ違ったりしているかもしれません。
テヘ。
そう考えると何だか嬉しくなりますね。
決めました。
僕はもうこの町で一生を終えます。
エミナちゃんの地元は僕が守ります。
さて、決意も固まったので、そろそろ現実に戻りましょうか。

 

「ってか、お前、兄貴いたの!?」
「うん。超イケメンだよ」
自分が弟ということを自覚しての発言なのかそれは。
デブメガネの兄貴が超イケメンなはずがあるか!
「ふーん」とテキトーに流す。
「あ、お前、信じてないだろ!?」
「信じれるか!」
そんな感じで言い争いが始まろうとした時に電話が鳴った。
もう夕方の6時だってのに、あと少しで仕事は終わりだってのに、電話が鳴った。
僕なら取らないが、トイチは取った。
「はい!トイレットペーパー屋です!」

 

 

「ロール」-11-
2013.11.28

ロール 11
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