あるアパートでの一件

 

7

102号室の住人

俺は、自らが動くことを出来るだけ避けたい人間だ。
そこで、大概の行動をヘリに任せる。
三台所有している。
といっても、ラジコンのヘリである。
だがしかし、ただのラジコンヘリではない。
改造して、ユーフォーキャッチャーの爪の部分を取り付けてある。
モノを運んだりするのには便利なのだ。
先程、述べた通り、なるべく自らの腰は上げない。
そのお陰で、沢山の脂肪を蓄えた俺を見て、隣に住む友は言った。
「よし、君をこのアパートの天然記念物に認定しよう!何があっても痩せてはならん!分かったか!」
お安いご用だった。
痩せるわけが無かろうが。
実際、それからもブクブクと太り続けた。
そして夜、寝る前に呟くのだ。
「主(コーラ)よ、我を肥やしたまへ。デブに栄光あれ!ラーメン!」

 

友に頼まれた任務は、なかなか骨折り損だった。
俺は、アパートの一階部の廊下にでんと座って、操縦桿を握った。
友の部屋のドアは開け放して、ヘリを出したり入れたりする。
上手く操作したラジコンヘリで、掴んだ虫かごをアパート裏の空き地へと運んだ。
まさにユーフォーキャッチャーみたいなものだ。
幸い、今のところ、大きな障害起きていない。
ただ、虫籠の数が多いため、長期戦になりそうだ。
時折、機をホバリングさせ、コーラで喉を潤した。
アパートの廊下は、簡単な柵こそあるが、外にむき出しになっている。
風は、涼しい。
しかし、俺は、デブだ。
汗はやばい。

 

左脇に、1リットルコーラの空きボトルが3本溜まった。
俺は、任務を順調に遂行していた。
すると、ヘリコプター並みに騒々しい音を立てて、アパートの脇にトラックが停まった。
よく見かける、引っ越し屋のトラック。
そして、その後ろにはタクシーが停まって、べっぴんさんが降りてきた。
べっぴんさんは、コツコツとハイヒールの音を立てて、アパートの廊下に足を踏み入れた。
俺は、その時、天然記念物でいることを辞めようと思った。
友との約束はどうだって良い。
そう。
痩せようと、決心したのだ。
恋をしたからだ。
そこで、諸君に聞きたい。
それ以外に理由は必要か?

 

 

「あるアパートでの一件」-7-
2013.7.22


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あるアパートでの一件 7