あるアパートでの一件
9
201号室の住人
テーブルに付き、コーヒーを飲んでいた。
正面に大学の後輩。
ベッドには管理人。
うるさくならないように、熊の形のグミを口に詰め込んでおいた。
拷問紛いの行為も、もう飽きた。
ふがふが言ってるが、無視して後輩とのティータイムを楽しむ。
「警察、何で来てくれなかったの?」
「なんか、忍の者を追うのに忙しいとか言ってました。」
「なにそれ!?困った住民を助けてくれないなんて、警察じゃないわ!本当に公務員は使えない!」
「そうですよね。ひどいですよね。しかも、忍の者ってなんなんですかね。」
「きっと、ドロボーよ。最近ニュースでやってるでしょ。忍者の格好してるってヤツ。」
「あぁ!あれですか。なるほど。でも、忍の者って呼び方、笑えますね。」
「馬鹿なのよ。‥それより、アイツはどこに行ったの?一度、部屋に来たわよね?」
「あぁ、なんか、野暮用があるとかで、出ていきましたよ。私と入れ違いで。もしかして、気付かれちゃいましたかね?」
「うーん。ヘマはしてないはずだけど。」
管理人が気付かれるようなことを言っただろうか。
いや、考えにくいな‥‥。
ふと、管理人が妙に大人しくなってるのが気になった。
私は大きく息を吸い込んで、叫ぶ。
「ちょっと、あんた!放って置かれてるからって、休んでんじゃないわよ!髪の毛をむしり取って、ツルツルになった頭にグミを張り付けるわよ!!それも、瞬間接着剤でね!!!」
そういうと、またふがふが言い出した。
「よろしい。それでこそ、囚われの身よ!」
「先輩、厳しいですね。私、なんだか泣きそうです。」
そう言いつつ、後輩はすでに涙目だった。
育ちが良いんだろう。
「ちょっと、アイツの動きが気になるわ。メールでもしてみて。」
「分かりました。」
これから、どうしようか。
気付かれてたら、計画がパーだ。
あー。
うるさい。
管理人が。
ふがふがうるさい。
「ちょっと、黙ってよ!!」
そう言って、熊のグミを管理人に向けて投げた。
「あ、メール返ってきました。」
後輩が言った。
「これから警察を呼んでくるみたいです。飛んで火に入るなんとやらですね!」
さっきまで涙目だった後輩が笑う。
「そうね。流れは私たちにあるみたいね。」
コーヒーをひと口飲んだ。
鼻から抜ける香りが、私をリラックスさせる。
さて、勝負はここからね。
「あるアパートでの一件」-9-
2013.7.22