あるアパートでの一件

 

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管理人

そろそろ、言っておかなければならないだろう。
なぜ、俺が熊の形をしたグミが嫌いなのか。
安心してくれ。
女どもは、コーヒーに夢中になっているから大丈夫だ。
まずは、熊が嫌いな理由からだ。

 

あれは、10代の頃だった。
俺は、中学生から忍者に憧れていて、高校生になってからの休日は、大抵、山の中で修行を試みていた。
もちろん一人でだ。
なぜなら、家を出る前から修行は始まっているからである。
家族にバレずに家を出るという、肩慣らしから始まる。
それからその日は、友達と遊ぶ約束をしておくのだ。
そして、遊んでいる途中に、雲隠れをする。
これも修行の一環である。
やってみれば分かるが、急に、そして自然に気配を消すことは難しいのだ。
そのまま、電車に乗り込み、山へ向かうのだ。
もちろん、切符など買わない。
改札で気付かれるようなヤツは、忍者にはなれないと決めていたからだ。
‥おっと、前置きが長くなった。
話を戻そう。
つまり、その修行を行う山で、小熊に襲われかけたのだ。
びっくりして、パンツを濡らしたのは生涯の秘密である。
その時の恐怖を思い出すから、熊由来のモノは全て嫌いなのだ。

 

さて、次は、グミについてだが、これについては詳しく説明する必要はない。
あれは、もう食べ物に値しない。
ナタデココで十分である!という話題から、当時、付き合ってた子とケンカになり、それが原因で別れてからもっと嫌いになった。

 

そして、その二つが融合したのが、熊の形をしたグミである。
人間は、最悪な魔物を生み出したもんだ。
しかし、今日の拷問のおかげでなんかもう、好きになりそうである。

 

無駄話はこのくらいにしておこう。
なにやら、女どもが気になることを話してる。
「忍者ドロボー」のことだ。
そして、「警察を呼ぶ」と。
俺は、息を飲んだ。
まさか、いとこにバレていたか。
だからこんなことを‥。
どうする。
色々と考えていると「休んでんじゃないわよ!」と怒鳴られ、熊の形をしたグミが飛んできた。
ひー。
お助けを!
そして、思うのだった。
なぜ、俺は、縄脱けの術ができないのか!
なぜ、俺は、熊が嫌いでグミも嫌いなのか!
そして、なぜっ!!
なぜこんな凶暴女の下着姿を見てしまったのか!!

あぁ。
本当に、忍者になりたかった。

 

 

「あるアパートでの一件」-10-
2013.7.22


日本史の闇を支配した「忍者」の正体 (別冊宝島 2032)

あるアパートでの一件 10