あるアパートでの一件

 

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103号室の住人

「実は、その覗き野郎には、忍者の疑いが掛けられてる。」
そう言うと、警官は「なんだと!?」と騒ぎだし、簡単に付いてきた。
「楽しいゲームをあげるから付いておいで~。」と子どもに言うみたいなもんだ。
それで付いてきてしまうのだから、どーしようもない。

 

アパートに行くまで、通常の倍の時間が掛かった。
全て警官たちのせいだ。
電柱があれば、部下っぽいヤツがノックする。
そして、上司っぽいヤツに報告。
「異常無し!」
「了解!」
民家のブロック塀ギリギリのところを、部下っぽいヤツが歩く。
たまに、触る。
で、上司っぽいヤツに報告。
「異常無し!」
「了解!」
なんなんだ、こいつら。
「あの、それ、何してんすか?」
思わず聞いてみると、先を歩いてた二人は振り返った。
そして、部下っぽいヤツがわざとらしいタメ息を吐く。
「これだから素人は…」なんていう言葉が続きそうだ。
上司っぽいヤツが呆れながら説明する。
「君、『伊賀流忍者大全集』を読んだことあるかい?」
なんだよそれ。
全然知らないぞ、そんな大全集。
「え?なんすかそれ…。読んだこと無いです 。」
「だったらゴチャゴチャ言うなよ!」
部下がしゃしゃり出てきた。
「まぁまぁ、彼は、一般人だから仕方ない。」
上司が宥めた。
まるでチンピラの子分と親分のようだ。
親分の方が言う。
「君、良いかい?『伊賀流忍者大全集』によると、忍の者が潜んでる確率高いランキング第一位が一軒家のブロック塀表面で、第二位が電信柱だ。その統計が出てる以上、みすみす通りすぎるわけにはいかんのだよ。」
こいつら、本気なのか?
いくらニュースで騒がれてると言えども、あのドロボーだって、本物の忍者なわけないだろ。
それ以前に、100%その本を信じてる国家機関に問題がある。
「そうだぞ!ローマは1日にして成らずなんだからな!」
きっと、上司の受け売りに違いないが、部下が自慢気に言う。
ここで表明しておきたい。
僕は部下のことが嫌いだ。

 

アパートが見えてきた。
デブがせっせと虫籠を運んでいた。
え?何で?
「え!?何でヘリ使ってねぇの!?」
あのデブが小走りをするなんて考えられない。
しかも、物を運んでいる。
どうなってんだ。
デブの方に寄っていく。
「おい、アイツは、知り合いか?何の密輸をしてるんだ?」
上司の方が完全に何かを疑った目をしながら、僕に聞いてきた。
「密輸!?そんなことするわけないじゃないですか!あれは、ただのコオロギですよ。」
「怪しいな。なぜただのコオロギを、部屋から移動させるんだ?」
今度は部下が言った。
めんどくせぇな。
「あ、そんなことよりも、電柱!」
そう言うと、部下は慌てて電柱に近づき、例のごとく忍者を探していた。
ギャグみたいだ。

 

デブが僕に気付いた。
「お帰り。」
「あぁ。ところで何でヘリを使ってないんだ?」
「友よ。良い質問をしてくれた。俺はもう、天然記念物を卒業するよ。痩せるよ。」
「は?何言ってんの?」
そんな会話をしてるときに、アパートから、すごく綺麗な女が出てきた。
「こんにちは。」
ここで、表明しておこう。
僕はその一言で、彼女にホの字になった。

 

 

「あるアパートでの一件」-11-
2013.7.22


伊賀流忍術マグカップ「絵変りの術」

あるアパートでの一件 11