あるアパートでの一件
12
203号室の住人
「飛んで火に入るなんとやらですね!」と言った私は、さぞかし悪い顔をしていたことだろう。
でも、あまり関係の無い管理人さんを巻き込んだのには、胸が痛む。
事の始まりは、一週間前に私が先輩に相談した時だった。
「なんか、怪しい男に、部屋の前をうろつかれてるんです。」
先輩は心底、心配してくれた。
「誰よ、そのクズは!顔は見てないの?」
非常に躊躇したが、言ってしまった。
「それが、こっそり、ドアスコープを覗いた事があるんです。」
次の日には、先輩とバイト先の先輩、それから私の三人でファミレスに行った。
私はそこで、バイト先の先輩に相談をした。
誰かに部屋の前をうろつかれている、と。
バイト先の先輩はとても心配してくれた。
「それは、ヒドイ覗き野郎だな!それはねぇ、きっと、管理人に違いないよ!なぜなら、管理人なら、アパート内をうろうろしてても、怪しまれないからね!」
あれ?
今、なぜ、「覗き野郎」と行動を断定できたのですか?
私はただ、「部屋の前をうろつかれている」と言っただけなのに。
そして、先輩、私は見てしまったんです。
ドアスコープ越しですが、あなたが、私の部屋の前でしゃがみこんでるのを。
ファミレスでの一件で、バイト先の先輩が犯人に違いないと確信した私と201号室の先輩は、彼を懲らしめるために、今日のこの作戦を考えた。
一旦、彼を容疑者からは外しておいて、油断させたのち、警察に渡す作戦!
仕方なしに、関係ない管理人さんには、苦い思いをしてもらってますが、先輩の下着姿を見たのは、事実なので、彼は何も疑ってないでしょう。
でも、やりすぎには、注意してあげてね。
なんとなく、そんな思いを抱いている。
悪いのは、バイト先の先輩なんだから。
その先輩が、今、自分で警察官を呼びに行ったなんて、この上ないこと!
早く、到着してくれないだろうか。
コーヒーが苦手な私は、余計にそう思った。
「あるアパートでの一件」-12-
2013.7.22